身につまされる、ひそやかな毒

ブラック・ティー (角川文庫)

ブラック・ティー (角川文庫)


以前、『鉄路に咲く物語』というアンソロジーを読んだときに
心に残ったのが、この本の表題作「ブラック・ティー」だった。
そこで、初めて山本文緒さんの小説を読んでみた。
直木賞を受けている作家さんなのに、なぜか縁がなかったのだ。
さてこの短編集は、「軽犯罪」をテーマに取り上げている。
とはいえ本当の犯罪に関わるのはごく一部のお話で、
その他は「人を不快にさせる、人の心を傷つける罪」について
親しみやすく、柔らかな文章が綴られる。
それぞれの短編が思いの他ユニークで救いを持たせているなか、
わたしが身につまされて心にちくっと感じたのは
やはり「ブラック・ティー」の一編だった。
夕暮れ時から夜にかけて、
東京の街をぐるぐると走る山手線に乗り込んだときの
不思議な昂揚感、虚無感、淋しさみたいなものが
行間から滲み出ている。
主人公の、20代半ばの女性の痛みがよくわかる。
この作品に共感する女性はたくさんいらっしゃるはずだ。
犯罪は決して許されることではないけれども・・・。
おっと、これ以上はネタばれになっちゃうからやめときますね。


では、今日はこれにて♪