素数、友愛数、完全数、そして。

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)


昨年、「第一回本屋大賞」を受賞した話題作である。
実は文庫化されるのを待っていた。
もちろん作品名や大まかな内容についての知識はあったが、
小川洋子さんの小説は自分にとって合うものと合わないものがあり
そのうえ、「記憶が残らない初老の数学者」と「阪神」とのかかわりが
どうも突拍子もないことのように感じられて
単行本を買ってまで読むのをためらっていたのである。
で、このたびめでたく文庫になったのを機にトライしてみた。
そうしたら、読み終わるのが惜しいほど面白かったのだ。
ああ、もっと早く読んでおくんだったな。
この小説からは様々な「潔さ」を感じた。
数学の潔さ、日々の記憶が残らない者がたどり着いた潔さ、
たった一人で息子を育てる母の潔さ、その聡明な息子の潔さ。
それから「江夏豊」の潔さも、充分に感じ得る。
名前も登場しない「博士」と「家政婦」と「ルート」は
ぎこちないような、へんてこりんなような、
それでいてせせらぐ水のように清らかな愛情に結ばれる。
たとえ、ともに過ごした時間はわずかだったとしても
博士に記憶は残らないとしても。
その関係もまた、とても潔い。
最後の数ページで泣かされてしまうこととなったが
喪失感が漂う一方で幸福感にもあふれた、稀有な小説だった。
第二回大賞作の「夜のピクニック恩田陸さん)」も本当によかったし、
やはり「本屋大賞にハズレなし」かな?


それでは、本日はこれにて〜。