宮部みゆきの「辛さ(からさ)」が好きだ。

名もなき毒

名もなき毒


さすが宮部みゆき!と拍手喝采を送りたくなる一冊だった。
いやもう、これこそ読書の醍醐味。
時間の合間をみて読む、なんてまどろっこしいのは抜き抜き、
だーっと一気に読むのがふさわしい現代ミステリーである。
それにしても、この小説のそこらじゅうに散らばる「毒」の怖さはどうだろう。
理不尽な毒、怒りの毒、無意識の毒、悲しい毒・・・。
読み進める途中、本気で背筋が寒くなった。
毒は、こんなにひとを痛めつけるものなのだろうか。
見るからに不幸のどん底にいる人々はおろか、
大資産家の娘と結婚し、幸せな家庭に恵まれた主人公の「杉村」でさえも
心の闇を抱えて生きている。
「闇」と「毒」は仲良しだ。
真面目で優しい市井の人々の隣に、いつも「毒」は棲んでいる。
温かい人情を描きながら、それを真っ黒く塗りつぶして
突き落とすような悲劇。
まさに、宮部みゆきさんの真骨頂だと思う。
わたしは宮部さんの「甘さ」と「辛さ」の味加減が大好きだ。
ただ、時代小説の範疇だと何となく「甘さ」が上回っているような気がする。
ファンタジーだと、オブラートにくるみすぎる。
やはり、現代ものの「辛さ」が一番自分にぴったりくるようだ。
財閥企業の社内報編集・杉村三郎氏は、前作の『誰か』、
そして本作に引き続き、今後も宮部さんのミステリー作中にて
探偵役を買って出てくれるらしい。
乞うご期待!である。
とにかく、時間を忘れるほどのめり込んでしまう小説だ。
これからお読みになる方はどうぞご注意のほど〜。


それでは、今日はここらで閉店♪