漱石の孫の、房之介氏。

漱石の孫 (新潮文庫)

漱石の孫 (新潮文庫)


いわゆる歴史的作家のうち、夏目漱石センセイはかなり好きなひとである。
わたしは性格が単純なせいか、内面を深く追求するのはいいが
そればかりに終始するような、「だから何なんだ」と言いたくなるような
物語にどうもなじめない。
フィクションにはエンターテイメントを求めてしまうのだ(偉そうだなぁ)。
その点、漱石さんというお方はすごい。
深く掘り下げすぎて胃が痛くなりそうな話でも、
ちゃんと「読ませる」仕掛けを忘れない。
お書きになっていたご本人は、きっと胃が痛かったことだろうが。
そして、お孫さんである夏目房之介氏は、これまたサービス精神に
非常に長けていらっしゃる。
漫画好きなら、まず間違いなく知っている評論家だ。
NHKの「BSマンガ夜話」では、幾度となく的確なレクチャーを聞き
充分楽しませてもらっていた。
以前からこのお二人、(やはり、似ている・・・)と思っていたが、
このエッセイを読み、さらにその感を強くした。
房之介氏にとって祖父・漱石さんは巨大な文鎮そのものであろう。
重くて厄介でうざったくて、めったなことでは外せないシロモノ。
けれども、それは何よりも精神的支柱となる「文鎮」なのだろう。
これがあってこそ、きっと、「価値ある文字が書ける」のだ。
漱石というおんぶおばけが背中からいなくなった今、房之介氏には
良い仕事をたくさんしていただきたい。
ユーモアに富み、含蓄のある語り口をもっと聞かせてほしいな、と
元・漫画少女は切に願うのでありました。


では、今日はこれにて♪