ふくよかな、ぬるめの燗のようなお話

センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)

読んでいるそばからお気に入りの居酒屋へいそいそと出かけたくなる、
ほんのりと幸せな小説だった。
30代後半の女性と、彼女の高校時代の国語教師であった
70代の男性とのゆっくりとした恋愛が描かれる。
二人の語らいにお酒と旨い肴はかかせない。
いくつかの季節を過ごしながらお互いを慈しみあうけれど
やがて、永遠の別れがやってくる。
普通の恋人たちよりも、早く。
とても美しい日本語で綴られていて、自然と読むのがスローペースになる。
読み終わるのがもったいないのだ。
桜も雨も、毒キノコにいたるまで背景の描写が清冽で、
しかも美味しそうな酒と食べ物が次々に登場する。
そのうえ二人の軽妙な、時にもどかしいようなやりとりは
仲が良すぎてうらやましいほどだ。
大切なものを喪失する哀しみをオブラートでくるむような
ラストの数行も味わい深い。
文庫の装丁も素敵。
とてもよい本を読むことができた。
実は、川上弘美さんの小説はちょっと苦手だったのだ。
シュールすぎるというか・・・。
だけど、このように素直に自分に入ってくる作品もあるのだなと
うれしくなった。
川上さんの本、もっとチャレンジしてみよう!


それでは、今日はこれにて♪