蔵王はもう冬景色

錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)


久しぶりに本格的な恋愛小説を読もうかな、と思い
それならばと今の季節にぴったりなタイトルの本を探してみた。
そして選んだのが、宮本輝さんの「錦繍(きんしゅう)」。
評判が高いことは知っていた。
それから物語が往復書簡のかたちで綴られていることも。
だけどいわゆる恋愛小説とは違う趣があった。
読み始め、まずは冒頭の4行でぐっと引き込まれる。
蔵王のダリア園、ドッコ沼、ゴンドラリフト
旅情を感じる言葉が連なるたった一文で、これから語られる
ドラマティックな物語を想像することができる。
実はこの先、蔵王という土地は物語にほとんど登場しないのだが
この場面で描かれる紅葉の、まさに錦繍の風景が
別れた男女の往復書簡を彩っているように感じられる。
手紙の文章の端正さ、実直さが胸に迫る。
人の弱さや悲しみが、それから些細な偶然が引き起こす運命を
過去から順番に、読む者に織りなしていく。
それでも、彼らは再び前を向いて歩き始めるのだ。
お互いの運命は、もう決して交差しないものであっても。
うーん、なんて読ませる小説だろう!
宮本輝さんはまさにストーリーテラーだなぁと実感した。
細部をみれば、ヒロインの亜紀は三十代半ばの設定なのに
使う言葉が昭和初期のお嬢さまみたいだとか
彼女の元の夫である靖明にほとんど魅力を感じられないとか
正直、しっくりこないところもある。
でも、そんなことはうっちゃておけるほど面白く、奥深い。
ミステリーを解くような味わいもあり、明快なテーマもあり、
読み応えたっぷりな一冊だった。
ドライフルーツがてんこ盛りの、どっしりパウンドケーキみたいな、
・・・どういう例えなんだか(笑)。


では、本日はこれにて〜♪