「静かな」宮部ワールド

誰か Somebody (カッパノベルス)

誰か Somebody (カッパノベルス)


実は、以前書下ろしで発売された単行本をすでに持っていた。
読もう読もうと思っているうちに本棚の奥へ移動してしまい
(要するに次々と積読本が増えて)、最近まで未読だった。
宮部さんは大好きな作家さんなのに〜。
どうも、本屋さんで掛けてもらったカバーを付けっぱなしで
何の本だかわすれてしまっていたらしい。
さて、そんなこんなでようやく読了した。
静かな、物悲しいミステリーだと思った。
宮部さんの書く小説には、こういったささやかな物語が
何べんも語られている。
正直、先が知りたくてうずうずするとか事件が衝撃的だとか
胸に突き刺さるような物語ではない。
実直に生きる市井の人々のつらさや悲しみを丹念に描いている。
それも、常に心の底に沈んでいるような、
他人にはあまりうかがい知ることのできない感情を。
ミステリーの本筋からは外れるのだが
わたしがここに登場する人物のなかで最も印象に残ったのは
「探偵役」となる、主人公の杉村三郎だった。
彼は大財閥の令嬢と結婚、一人娘を授かり
最愛の家族とともに何不自由ない日々を穏やかに過ごしている。
だけど、本当に彼は幸せなのだろうか?
幸せな童話を小さな娘に読み聞かせている父親は
実は自分自身にもそうしているのではないかと思った。
世間は皆、元気に明るい毎日を過ごそうと頑張っているけれど
誰もが密かに「窓下を通る誰か」―そこはかとない不安や違和感―を
抱えながら生きている。
ふとそんなことを感じてしまった一冊だった。
何はともあれほとんど同郷、物事の捉え方や感じ方に非常に近いものを
感じる宮部みゆき作品。
ある意味、安心して読めるところがありがたい。
次は何を読もうかなっ?


それでは、本日は閉店〜♪